まだ自分が雇われ社長をしていた頃、出張中の本屋さんで、衝撃の本に出会いました。
それが、「人生が変わる2枚目の名刺」でした。
中身を読むまでもなく、そのタイトルだけで、心臓がズキューンと射抜かれて、経営者、とか言いながら、自分は結局のところ根っからの会社員で、雇われ人だったのだなあと、28年以上の仕事生活を振り返って、思うのでした。
もちろん、それは、忠誠心、という意味では悪いことではないのだと思いますが、自分の可能性を広げて考える上では、やはりもったいないことをしてきた感がありました。
2枚目の名刺とは、会社で支給される、会社員としてのオフィシャルな名刺の他に、「個人」としての名刺を持ちましょう、という提案です。
ブログを一生懸命やるようになった人たちが、自己紹介でブログ紹介をしたくて、名刺を作ったりする動きは、かねてから見てきましたが、この本で提唱しているのは、「なりたい自分になるために」まずは自らが、ちゃんと自分は何者だと表現しましょうよ、という、いたってシンプルながら、なぜか「してはいけないこと」と思ってしまうことだったりするのです。
なりたい自分。
ほほう、出てきましたね。「自分探し」「自分らしいライフスタイル探し」に通じるキーワード。
この頃、私はすでに「次」を視野に入れていました。
ロサンゼルスに移住し、友人が所有する会社の経営陣として招いていただいて、流れで社長まで引き受けてしまったものの、2~3年で独立しよう、と決めていた自分の思いは変わることなく。
どこでどうスタートしていいのやら、わからずにいたのですが、この本を手に入れる数週間前に、もう心は決まっていたのです。
年内で終わりにさせてもらおうと。
そう考えた瞬間から、いろいろなサインが降ってきました。
2枚目の名刺を作るとしたら、自分は、そこになんと書き入れるのだろう?
肩書きは?
会社名は?
メールアドレスは?
会社の名刺であれば、当たり前に思いつく、それらの要素が、自分個人の名刺となると、行き詰まったまま、頭が白紙状態です。
会社という身ぐるみを剥いだときに、自分は何者なんだ?という質問は、とても意味深いものです。
それは、何になりたいのか、ということのイメージを、一気に具体化させてくれます。
そして、これが一番、大事なのですが、「言った瞬間に、それは現実になる」という事実です。
自分の場合は、翌春の退社が正式に幹部の間では決まった後、暮れ近くに日本に行く機会がありました。
さて、ロサンゼルスでもないし、すぐにウワサになりそうなハワイでもないし(笑)。
日本で、新しい人間関係を広げるための旅でもあったので、ここで二枚目の名刺の出番だ~と思って、作りました。
さて、肩書きは…? 会社名は…? メールアドレスは…?
秘密です。
いえ、ウソです(笑)。
ハワイからロサンゼルスに移った時、実は、自分は会社を持っていました。
Invisible Partner LLC (有限会社インビジブル・パートナー)というのですが、コンサルとかコーチとかで、見えない存在ながらも、パートナーとして伴走しているよ、応援していくんだよ、という意味合いを込めたもの。
そのドメインも持っていましたし、メールもありました。個人ブログも、それでやっていたこともありました。
なので、コンサルタント、という肩書きは、普通に出てきて、そこに、ライター、という肩書を足しました。
それがまた、なんだか勇気がいることだったりもしました。
20代の最初の仕事から、ずっと仕事として書き続けてきているのに、なぜ、ライターと自分を称することをそんなにためらうのか。
それは、自分なりの心のブロックでした。
が、名刺に一度、刻んだ瞬間、世界が変わりました。
自分が、「ライター」になりました。それは、もう一瞬のできごとでした。
へ? こんな簡単なことだったんだっけ? と拍子抜けするほどに。
ライターなんて、そもそも自称でいいわけです。
しかも、それでお金をいただいた経験があるプロなのだから、何も遠慮することなく言えばいいのに、独立した世界でそれをしていなかった、という、ただ、それだけの理由で、自分がライターである、ということすら、考えてみたこともなかったのです。
ずっと、バカみたいに、憧れていたのです、ライターになることに(笑)。
さて、できあがった名刺を持って、日本に遊びに行きました。
会う人、会う人、皆に渡しました。そのとき、もう自分は「会社員」ではありませんでした。
ひとりの、個人。どの世界にも紐付いていない、ひとりの人間。
なんだ、なりたい自分になるのなんて、超簡単なことだったんだ~!と気付いた衝撃の体験の連続でした。
どうなりたいかも、自分はちゃんとわかっていて、その準備もずっとしてきてて。
ただ、それを表の世界に出して、見せて、「自分で言う」。それだけのことでした。
クライアントで、会社員から独立をしたいという方々がいて、「課外活動」的に、個人での活動を始めたりして、準備しています。
なので、彼らにも、この二枚目の名刺を勧めている最中です。
この話を聞くと、彼らもパッと表情が明るくなります。
会社員としての、ID的な名刺の他に、自分自身の名刺を持つことで、自分の手に、本来あるはずのパワーが、再び戻ってくる気がするからです。
へえ、そんなことしていいんだあって、やろうともしてこなかった自分に、まず驚くのです。
一度、個人としての自分で動く、ということを体験すると、会社で働くことにも、意識が変わっていきます。
もっともっと主体性に学ぼうとするし、「自分力」を鍛えるため、活かすために、積極的に人のプロジェクトにすら関わっていくようにもなるかもしれません。
時間の貴重さに目覚めて、一分一秒を惜しんで、成果に結びつけようとするでしょう。
だから、これは、会社にも自分にも、Win-Winなことだと思うのです。
組織は、個人が異様にパワーを持つことを恐怖します。
でも、真に有能なリーダーはきっと知っています。独立心旺盛で、起業家精神に満ち、主体性を持って、自己責任で働く人間ほど、会社に貢献する存在になることを。
成長しよう、学ぼう。そういう意欲があるかないかで、仕事の質も、成長のスピードも、大いに変わるものなのです。
さて、ゴールデンウイークも真ん中あたり。
もし自分が個人で名刺を持つとしたならば…
そんなことを妄想して、人生が変わる簡単なきっかけをつかんでみてはいかがでしょうか?