もし2週間、会社を強制的に休めと言われたら? 社員のブラックボックス化を防ぐ抜本的対策

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アメリカで会社経営に携わっていた時に、いろいろと驚くことはありました。

「Two Week Notice」という慣習的なものがあって、辞めるなら、せめて2週間前には言ってちょうだいね、ということが就業規則には書いてあったりします。でも、社員と会社の関係は、基本的には「契約」ではなく「自由意志」に基づくものだから。就業規則と言えども、強制力はありません。

だから、今日で辞めます、というのも、別に止めることはできません。

なんせ、会社側から「今日でクビです」と言える自由は確保したいのだから、お互い様ですよね、という考え方だったりするんですね。

仮に2週間くれたとしても、週末抜かせば、実働は10日間。その期間で引き継げることというのも限られていますし、そんな短時間で、採用がスムーズにできることは稀だったりもします。

だから、既存の社員や上司が、形だけでも引き継がないとなりません。

日本の関連各位とかからは、そんなことができないような契約でも同意書でもサインさせたら、と言われたり、それは会社と社員との信頼関係が薄いから起こることだと非難されたりもするのですが、必ずしもそういうことではないんですよね。

辞めるときには◯週間(あるいは◯ヶ月)前に言います、みたいな同意書にサインをさせたら、くびにする時も、同じ期間分の給与を保証しないとなりませんよ、と人事アドバイザーには脅されます。

やってはいけませんよ、ということです。

社員だって、次の会社を決めてから辞めたい。そして、面接で、「いつから来れますか?」と聞かれた時、◯ヶ月先、とは言えません。

募集を出して、面接しているということは、その会社だって、すぐに来て欲しいわけですからね。

というわけで、最短の2週間、というのが、どちら側にとっても都合の良い、落ち着きの良い期間として、使われています。

こういうのが頻繁に行われる環境にあって、管理者として怖いのは「社員のブラックボックス化」です。

その社員が辞めたら、誰も変わりがいない。誰も、その機能を引き受けられるものがいない。誰も、その契約や顧客や仕事の内容を知らない。

そういう状態が、一番、怖いわけです。

いきなりいなくなったりして困る度合いが大きいのは、やはり会計士やら銀行やら投資会社やら、あるいは会社で言えば経理など、「お金」を扱うビジネスであり、ポジションです。

犯罪になりかねない場合も、往々にしてあります。

(日本でも、マイナンバーをめぐって、早速、ありましたね…。経理が不正、というのは、よく聞く話です。)

なので、ハワイやロサンゼルスの銀行とか、まともなところは、「2週間の強制的バケーション」を年に2回、取らせたりしています。2週間、というのは、よく考えているな、と思うのですが、その理由は、誰かにきっちり引き継ぎをしていかないと、困るくらいの長い期間であるということです。

引き継ぎをする、ということは、1)きちんとした仕事をしていないと引き継げない(ばれちゃう)、2)不正などできない(ばれちゃう)ということなんですね。

その社員の普段の仕事ぶりや実力、ヘタしたら、顧客やベンダー、パートナーからの評価までもが、裸にされてしまうという良い仕組みです。

稲盛さんの経営塾でも、ダブルチェックの原則、ということを教わるのですが、それは、「社員に不正をする気を起こさせる会社が悪い」という哲学のもと、それをさせない仕組みを作って、未然に防げ、ということです。

それに加え、社員をブラックボックス化させないで、いつ辞めても、いつクビにしても大丈夫、という状態を整えておく。

それを制度として行っているのが、この2週間の強制バケーションというわけです。

日本のクライアントさんとお話していると、「有給が取りにくい」という話は、いまだに出てきます。

もちろん、アメリカも、経営の効率化のためにぎりぎりの人数で、常に過負荷の状態で仕事をさせていますので、仕事は多いです。

でも、彼らは帰ろうとします。そして、帰ります。

そのために、必然的に「効率化」を自主的にはかるし、個人でできる仕事の取捨選択は日常的にしています。

アメリカの忙しい人と、アポを取るというのは、とてもたいへんなんです。

日本の方が、よく引き継ぎの挨拶とか、顔見世的な表敬訪問とかしたがることもあるのですが、基本、歓迎されません。

とくに今、メールやスカイプで済んでしまうことが多い中、私の貴重な時間を、そういう非生産的なことで盗むな、という考え方です。

ミーティングは、5分、10分で、さくさくっと終わらせます。それで、事足りることが多いんですよね。

日本は、今でも上司が休みを取らない、と言います。会社全体で、休みが取りにくい状況があって、改善はされない、と。

でも、それは、自分のクビを締めていることかもしれないのです。

社員をブラックボックス化させ、自分の仕事の権限委譲(デリゲーション)も進まず、組織が硬直化して、ある時、ぽきっと折れてしまうような。

残業も同じです。

一日を10時間で考える社員と、8時間で考える社員が、生産性を競って負けないようにするには、8時間の社員は、仕組み化をし、効率化をはかり、集中度を高めていかねばなりません。

それはでも、「正統な努力」だと思うし、会社として本来評価すべきは、そういう方向に向かう社員のはずですよね。

ということで、日本にも、どんな業界にも、「2週間強制バケーション制度」を取り入れたら、案外、面白いことになるんじゃないかなあと思います。

ハワイでも、アメリカ人スタッフが、3週間くらいバケーションを取ったことがありますが、最初はえー!っと思ったものの、実際にはたいした影響は、ありませんでした。

ロサンゼルスでも、ビザ取得の関係で、4週間位、社員が遠隔で仕事するようなことになりましたが(半分はバケーションを取りつつ)、それも、何とかうまくいってました。

会社にとって一番怖いのは、社員のブラックボックス化。そして、その社員が、ある日突然、辞めることです。

誰がいつ、辞めてもいいように、1)仕組み化をはかる、2)ブラックボックスにさせない仕掛けをもつことは必須。

そのためにも、休みは皆で、積極的に取り合うことが役に立つはずなんですね。

でも、下にもある書籍「ブラック企業」とかを読むと、とてもとても、そんなレベルの話ではないほどのことがまかり通ったりもしているのが現実のようで、心が痛みます。

景気が冷え、企業が生きながらえようとするときに、やっぱり人が犠牲になってきた背景が良く見えます。

働くことは、本来、幸せなことであるはずなのですけどね。

そう思わせてくれない会社に、忠誠を尽くす理由はないように、私などは思ってしまいます。