ハワイで洗礼受けたグローバルビジネスの厳しさ。スモールビジネスだから見えたこと

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ハワイの友人(と勝手に呼んでしまいますが)であるチエコ・エゲットさんのブログ『大人のハワイライフ』は最高に面白いのですが、彼女が最新ブログで「誠実な海外取引??」というタイトルで、日本のお育ちの良いビジネスマナーではグローバルでやっていけないよ、という話をされていました。

本当にその通りだよなあ、と実感込めて思います。

ハワイとロサンゼルス、シアトル、サンディエゴ等で経営体験をさせていただきましたが、とくにハワイで社長になった最初の5年は、目からウロコ体験の連続でした。9.11直後に大赤字の状態で引き継いだ会社だったので、今思うと二重苦。泥んこの沼地の中をズボズボ足が抜けなくなりそうなくらいに浸かりながら、一歩一歩進んでいった感じ。立ち止まったら、そのまま沼の底に飲み込まれそうだったから全力で走り続けるしかありませんでした。

今だったら絶対受けないポジションなのですが(笑)、あの時は何も知らないし、引き受けて事業を何とか建てなおさないとビザも困るしっていう状況だったので、選択がないままやっていました。いやー知らないって、いいことですね。

思い返しても一番のショックだったのは、「お金を払わないお客さんがいる」ってことでした。それもものすごくたくさん。それも平気で。一時「平気でうそをつく人たち」という本が流行りましたが、「平気でお金を払わない人たち」というタイトルで本を書きたかったくらい、その言葉がいつも頭の中を渦巻いていました。

フリー誌とウェブサイトをやっていたので、収入の多くは広告から来るものでした。MBAは持っていても、実際のビジネスのオペレーションははじめて。アメリカには末締め末払いなんて約束も契約の仕方もなく、請求書から20日後とか、30日後とかいう決め方しかありません。

でも、だからといってちゃんとその日付通り払ってくれる会社は半分もありませんでした。1カ月遅れ、2カ月遅れで払ってくる方がほとんど。1カ月に100ドル、500ドル、1000ドル、2000ドルという額にも関わらず、催促して、催促して、やっと払ってくれるかどうか、という方も多数いました。

時は同時多発テロ事件の直後。皆、お金がないんです。旅行者がいなくなってしまったんだから。バタバタと音を立ててお店や事業が潰れていきました。当時売り上げが欲しくて、営業が甘い条件で売ったりしていたことも手伝って、僕らが取りっぱぐれた金額は数千万円にも上りました。始まって数年しか経っていない会社にとってはあまりにも厳しい現実でした。

しかしそこは郷に入っては郷に従え。嘆いていても仕方なくて、この土地のやり方があるんだから、「払ってもらえるビジネスのやり方」を学んでいく他ありません。

取り立ての専門家に一時、会社に詰めてもらって、彼と一緒にお客さんを訪問しながら、回収をし、ダメなら訴えを起こし、そして社内ルールを徹底し、仕組みを作っていきました。

話し合い中、逆ギレしてレストランで大騒ぎするお客さんの声をさらに上回るような大きな声で年上のその人を制圧し、叱り、支払いプランに個人保証付きでサインをさせたこともありました。必死になると、人は違う自分にもなれるようです。シラーっと罪の意識もないまま逃れようとする人を目の前にして、心の底から怒りがこみ上げるっていう経験、あの時初めてしたかもしれません。忘れもしない2002年、夜のリケリケ・ドライブイン。周りでサイミン食べてる人たちがビックリしてたっけ(苦笑)。

そこからは、もうエンドレスのバトルです。いや、お客様のことは大好きですし、尊敬&感謝していますし、貢献したいとずっと思ってきましたけど、支払いの事になると、ちょっと別人になっちゃう人がいるんですよ(苦笑)。世界各地に散らばっている同業の社長が集まれば、この話で持ちきりです。どういう人が払い、どういう人が払わないか。危ない事業の見分け方とか、支払いを逃れるための言い訳集とか交換したり(笑)。

もうただ単に上を行くしかないのです。それが事業として生きぬいていくということなんだと分かったから。変えられるのは常に自分だけ。策もなく売る方が悪いのです。

その内、いろんなことも見えてくるようになりました。

ハワイでは観光業の一部でもあったので、観光客の数が少なくなると、何ヶ月かしてビジネスに影響が出るのも見えましたし、繁忙期前の仕入れ時には、ちょっとお金をセーブしちゃう事業主が多いのにも気づきました。数多くのお客様を同時に俯瞰して見ていると経済が見えてくるようです。

どういう人たちがいずれ危なくなって、どういう人たちがちゃんと成功して、というのも、たくさんの事例を生で見せてもらえたので本当に勉強になりました。支払いをいつものパターンよりも遅らせる人が増えてくると、あ、今は街全体にキャッシュがないんだなって分かる。聞いて回れば原因も見えてくる。生きた経済のお勉強です。

「今、ワイキキはどんなだい?」って、とある大企業のハワイ社長を務めて引退された方と初めてランチをさせていただいた時に聞かれました。彼にとっては世間話のひとつだったかもしれないのですが、一連のこういう話をさせていただいたら、そのリアルさにたいそう面白がられ、一発で気に入っていただいたなんてこともありました。こういうスモールビジネスのリアリティは、なかなか大企業の上の方の方には見えにくかったりもするようですね。

その後、よく銀行の方にも聞かれるようになりました。ワイキキの方はどうですか?って。スモールビジネスだから見えることっていうのもあるんだなあと知りました。

稲盛さんがハワイ盛和塾の開塾式でお越しになった際は、ちょうど日本航空のCEOになられたばかり。たまたま車で次のイベントへとお送りする役割を授かった私に、稲盛さんは観光業と日本航空との関係、今回の再生プロジェクトの影響について尋ねられました。

「ハワイのビジネスは皆、毎朝、日本から何人の観光客が到着したか気にして、うちのウエブサイトを見に来られるんですよ。その位、皆、航空会社さんの日々の運行状況を熟知しながらビジネスをしています」とお話したら、一瞬、驚かれながらも、「この街の経済の根幹なんだな」と覚悟を新たにしたようにおっしゃられたのが印象的でした。

経営が悪化したからと言って、簡単に減便なんかしたら、この街のスモールビジネスは皆、たいへんなんですと、直接お話しできて本当に嬉しかったです。

もちろん日本にも支払いを怠るビジネスはあるでしょう。でも多分、比較にならないほど、アメリカの方が多いです。コレクション・エージェントという取り立て専門の職業があるほど多いです。大企業の駐在さんは弁護士に頼ってしまいますが、高いフィーを取られるだけで回収にはつながらないケースが多いようです。成功報酬型のところをおすすめします。

そして、もちろん支払い問題は氷山の一角。他にも山ほど、日本では多発しないような問題が良く起こります。くれぐれも、お気をつけを。