不動産屋さんとの面談で学んだ団地の未来

親がいなくなったら家をどうするか。それはいつかは来るはずのことでしたが、いつのことだか想像もつかず、移り住んでからの40年間というもの、現実として考えたことは一度もありませんでした。

しかし今回、家長である父親がもしかしたら緊急入院したまま家に戻らないかも、という事態が発生し、普段はゴミとしてした認識してなかった郵便受けに入ってくるチラシの文字が目に飛び込んできました。

「この街区の低層階の部屋を探している方がいます」

昭和49年、1974年に入居が始まった当時の「ニュータウン」も40歳。日本の不動産業界の感覚で言うと、かなりな高齢のようです。この間に住宅事情も変わり、インテリアの様式も変わり、人々の生活習慣も変わり、今の家とこの家とでは、間取りも様相も大きく異なります。

昔ならではの良さもあるようです。棟と棟の間がすごく開いていて日照が遮られることはなく、プライバシーもかなり確保されている気がします。必ず南と北に窓があり、ベランダには燦燦と日が差しています。風通しも素晴らしく良く、晴れた日の心地よさと言ったらありません。

定期的に大きな修繕工事が入り、外観はとても明るく綺麗です。

埋立地の上に創られた街は、まさに新天地。道路は広く、きっちり区画整理され、将来のゾーニング計画もしっかりしていました。引っ越してきた当時は、まだ目の前の通りの向こうは埋め立てたままで、泥状の土が山になっていたものですが、それもいつしか団地に変わり、学校が次々に建てられ、海まで続くきれいな街が整然と完成しました。

しかし40年前には元気でバリバリ働いていた家主たちも、今や70代、80代がほとんど。子どもたちは出ていって、老齢の親だけが残っている家庭も多そうです。なのに、エレベーターがない5階建てが主流のこの街。今、起こっている民族移動は簡単に言うと、こんな感じだそうです。

  1. 同じ街区内の高層階から低層階への移転
  2. 同じ街区内の普通棟から増築棟への移転
  3. 同じ街区内の普通部屋からリフォーム部屋への移転
  4. 賃貸街区から分譲街区へ新規購入
  5. 駅の遠い街区から駅に近い街区への移転

親の家は分譲街区で、駅に近くて(徒歩6−8分)、ショッピング施設に近くて(徒歩5分)、低層階(2階)なので、ご指名買いが出るような好条件ではあるそうです。

リフォームは最低限を数度しただけで、洋間にするとか、襖をぶちぬいて部屋を広くするとか、押入れをクローゼットにするとかいう大きなことはしていません。最後の改装ももう昔のことなので、かなり古くはなっています。次に誰か住むとしたら手を入れる必要はあると思います。

という条件下で、3DKで48平米で600万円くらいかな、というところだとか。売りに出すときは700万円くらいつけて、650万円くらいで落ち着くと、まあ良いかなあという程度だと。完全リフォームしたもので1000万円前後が相場だそうです。

高層階だと500万円を切るほどになっており、一時期は3000万円くらいしたらしいんですが、こんなものなんですねえ。実際、駅から20分近く歩くような古い物件だと、200万円台で公示されていて驚きます。それって、貯金でポンと買える値段。それでも買い手はつかないそうです。なんか寂しい話ですね。

同じ街区内で動きたい理由は、母も言うのですが、友だちがいるから、住み慣れているから、整骨院が近いから(笑)、病院が近いから、という高齢者目線の理由と、あとは子どもが小さい方の「学区を変えたくないから」という理由が多いとか。

「住みやすい街なので、一度入られた方が他へ、というのは、なかなか考えにくいんだと思います。」

うーん、そうかもしれません。海も近くて、駅も近くて、東京駅まで40分。街が新しいので、人にフレンドリーな作りになっているのは確かですね。だんだんとシニア化して、シニアにはより住みやすくなってきています。モールの中に薬局が何店もはいっていたり、整骨院やマッサージ店が周囲に続々できていたり、お弁当宅配が充実していたり…。

5階建ての場合、2階が最も需要が高いのだそうです。足が悪いと1階という選択にならざるをえないでしょうが、やはり簡単にベランダに入っていけるし、通りから結構、見えちゃう高さなんですね。母親も、足が悪いけれども、ぎりぎりまで2階に住んでいたいと言います。

ここを貸して自分たちは別なところへ、という選択は、「UR住宅の賃貸ルームは、今、相当きれいなので、それと対抗するのは難しいですね」とのこと。貸せるかもしれないけど、かなり値段を抑えないと借りてはつかないのだとか。UR住宅ってそんないいの?と聞いたら、ウェブサイトで画像を見せてくれました。それが上記の写真です。

き、きれいですよね。これが6万5千円くらいで借りられるんだそうです。48平米。今の家と同じサイズですが、うちは3DK、こちらは1LDK。ひとつの部屋をぐんと大きく拡張してるんですね。そうですよねえ。今どき4畳半とか6畳とか、ちょっとねえ…。敷金、礼金などがないので、さくっと短期で借りられちゃうのも便利な点だとか。(もちろん長期前提で入るのですが、入った後に出やすい、という意味。)

最後に、ずっと疑問に思っていたことを、不動産屋さんに聞いてみました。

上野 「高層階から出たい人が増えていくと、だんだんと空き家が増えていくような気がするんですが…?」

不動産 「すでに売りにくくはなってきていて、かなり値段が下がっています。その内、300万円くらいになっていくんだと思いますね。」

上野 「それでも買い手がつかないってことも出てきますよね?」

不動産 「人口も減少するし、そうですね。川向うの◯町なんかは、空き家が多くなっていますよ。低価格化が進んでいて、市営住宅に住む方が、いっそそれならと購入されたり、ローンを組みにくい外国人の方が購入して住み始めています。」

上野 「なるほど!」

不動産 「◯町は、かなり中国の方が増えていますね。外国の方の場合だと、賃貸するにも制限をつけられることが多くて、現金で買った方が楽ですよね。」

ほう…。世の中の流れをマクロで見ると、とても面白い。

ちなみに、この家を売らずに、自分とか妹とかがリフォームして住みたいと言った場合、全面改装して上記のUR住宅みたいにするとして、300万円くらいでできるんだとか。思わず「安っ!」と叫んでしまいました。

さらに、「1カ月もあればできる」と言うので、ハワイの工事のことを思って、日本ってやっぱスゴイなあと感動。もちろんどんなキッチンを入れるのか、どんなお風呂のユニットにするのか、グレードはいかようにも選べるので、僕のような贅沢なテイストの人だと(苦笑)、カタログにある一番下のランクのものは選びませんから、当然、価格も上がっていくのでしょうけどね。っていうか、後で入れ替えるの、たいへんですよね。だったら、最初にちょっと足して、長く満足感が続くより良いものを、と思うわけです。

これも選択としてはアリかもね、と納得。プロに聞くと、いろいろお勉強になります。選択がいっぱいあるのって、安心です。

ちなみにこの不動産屋さん。稲毛海岸と検見川浜のショッピングモールの中にお店があって、カウンターだけの入りやすい店舗を運営しています。いわゆるガラスドアにぺたぺたと物件の情報が貼ってあるところとは一線を画しています。この2駅の周辺の、「公団住宅を中心とする物件」を専門に扱うという、ニッチなビジネス。コミッションは少額ですが、物件数も多いし、今は動きが激しいので、売買どちらも斡旋しつつ、特化している分、ナレッジも豊富で、地元のオバちゃまたちに支持されているようです。

買い物カゴ提げて、ぶらりと店内に入ってきて説明を聞き、「あら、今からその部屋見に行けるかしら?」みたいなことがしょっちゅうなんだとか。

いろんな世界がありますねえ~(笑)。