心の傷口も、絆創膏で隠さずに外気に晒した方が治りが早い

11月初旬。近所の住宅街を快調に飛ばしてランニングしていたら、突然、身体が宙を飛んでいました。

その瞬間のことを思い出すと、なぜかスローモーションなのですが、どうやら少し飛び出ていた舗道の敷石につま先が当たって転んだようです。一瞬の空中遊泳中にちゃんと身体の防衛本能が働いて右側に身体を捻り、両手の平のふっくらしたところで最初の着地の衝撃を吸収し、次に右膝の右側で着地し、右肩のふんわりした膨らみで一番大きな衝撃を吸収していました。

身体をひねったせいで、頭や顔は大丈夫でしたし、身体の柔らかいところだけで着地していたので、大事には至らなかったのですが、右膝の横の擦り傷はかなり深くて大きく、それから1ヶ月ほど、ジュクジュクが消えませんでした。

それから2カ月して、またやりました…。同じように最後のフィニッシュで猛ダッシュしていた時、今度は道路脇のフラットなところを選んだにも関わらず、何かの微妙な段差に引っかかったようです。

でも二度目は比較すると治りがうんと早かったのです。身体もちゃんと覚えたのでしょうか。まったく同じケース、まったく同じスピードだったのに、明らかに膝の擦り傷は浅く済んだようでもあります。

1度目になかなかジュクジュクが消えなかったのには訳がありました。少し深く皮膚組織が削れてしまったのか、なかなか表面が乾かなくて、常に絆創膏のお世話になりました。お風呂に入るのにも滲みるので、防水用の絆創膏など買ってみたり。秋から冬になる時期なので、長いパンツを履くにも汚れるから、常に絆創膏を手放せずにいたら、若干、化膿気味になってしまったのです。

アメリカはこんなことで病院など行きませんので、ドラッグストアに充実した強力な薬が並んでいます。抗生物質入りの軟膏を買ってきて、しばらく塗っていたら、化膿もひき、1カ月経った頃になって、ウソのように傷が乾いてなくなっていきました。

二度目は、そんなこともあったので、最初の数日だけ抗生物質入り軟膏を塗って絆創膏しただけで、すぐにしなくなりました。後は多少シーツが汚れても、ジーンズの内側が汚れても、洗えば落ちる程度のものだったので絆創膏を貼らずに放っておいたら、傷は1週間で乾き、カサブタができ、その後は急速に肌を再生して10日もしたら元の肌に戻っていました。

■ひとつは身体の防衛本能がより鋭敏に働いて、同じ深さの傷を作らないように受け身態勢を整えてくれたこと。

■もうひとつは、傷を庇い過ぎずに外気に晒したことで、身体本来が持つ自然治癒機能が正常に働いたこと。

そんなことを実感して、生物としての人間は、とても高性能にできているなあ、と感動した体験でした。

そして、心もこれと同じだよなあと、ふと思うのです。

先日、クライアントさんが、セッション中にとある過去の辛かった体験を思い出されて、泣かれるということがありました。思い出すと辛いだろうからと、ずっと心にフタをするようにして、考えずに来たのだそうです。

実際、その方は過去のことをすでに克服されていて、そうやって立ち直った自分を誇りに思えているほどだったのですが、防衛本能からなのか、傷口に絆創膏を貼るようにして見えなくしていたようなのです。

自分がそうしていたことにハッと気がつかれたと同時に、それにまつわるいろいろな思いが溶け出して涙と一緒になって流れてきました。

それは悲しみの涙ではなく、「浄化」の涙なのだと理解しています。

(過去記事「涙は心の汗だ! 二度と戻らない今日のために」参照)

自分にも思い当たることはたくさんあります。

人との諍い、誤解、失敗、損失、別離、裏切り、失意。

絆創膏を貼りたくなる傷は、大小、たくさんあるものです。

絆創膏を貼っている間は、血は滲んでこないかもしれないけれど、傷もなかなか乾かなくて、いつまでも組織面がジュクジュクとしたまま。そこを突かれるととても痛くて、再び血が滲んでしまったりします。

傷や痛みは、隠そう、隠そうとすればするほど、より「弱さ」として存在を大きくしていくようです。

アメリカの社会は、うまくできてるなあと思うことがあるのですが、皆、結構、傷をさらけ出すんですね。自ら語るんです。

絆創膏をぺろっとめくって、「こんな風に傷があるんです、だいぶ乾いてきたけど、まだ完全にカサブタができきらない生な傷があるんです」と涙ながらに語ります。それがどうやってできたもので、治療のために何をして、でもどうしても完全には癒やされなくて…と、赤裸々に心の内をさらけ出すのです。

その場面は、サポート・コミュニティだったり、TVのトークショーであったり、カウンセラー相手だったり、いろいろです。

中でも有名なのは、アルコール中毒患者の再生サポート団体「AA」のミーティングでしょうか。

「私は(名前)です。アルコール中毒です。」

そうやって自己紹介することで自身で認め、傷口を晒し、同じ傷を持った人同士が自由に語りあい、再生機能を促します。

なかなか人には言えない心身の病のこと、過去に犯した罪のこと、辛い体験や自分ではどうにも持て余してしまう心の荷物のことを話して「外気に晒す」ことができるだけで、その傷は、圧倒的に治りが早くなっていくようです。

ライフコーチはカウンセラーでもセラピストでもありませんが、「本当の自分を発見する」ことをお手伝いする過程で、どうしても人が隠し持っている傷に触れてしまうことがあります。その度に話すのは、人がもつ自己治癒能力、再生機能の素晴らしさ。

思い切って絆創膏を取って、空気に晒していくと、自然とかさぶたができて、傷があったところを、より強い組織にしながら「再生」していきます。人の持つ再生機能をまず信じて生きていれば、失敗を怖がることなんてなくなります。一度、傷ついても、また立ち直ればいいだけのことだから。

泣けることは素晴らしいことだな、そのことで人は前を向いていけるもんな、とあらためて教えていただいたセッション体験でした。