マクドナルドのコーヒーが熱過ぎた!と3億円を勝ち取った火傷女性の「真実」が今ビデオで蘇る

1994年8月。もう20年前のことになるのだけど、僕がハワイに移住する直前に話題になった事件で、マクドナルドでコーヒーを買った女性が車の中でこぼして重度のやけどを負った一件がある。起こったのは数年前のことだけれど、判決が下ったのが8月18日だった。僕がハワイに住み始めたのは28日で、日本でもアメリカでも、テレビではずっとセンセーショナルな話題としてスキャンダラスに取り上げられていた。

実際日本でも僕らは驚いたし、そんなことで訴えることそのものに、何だか殺伐として、機会さえあればお金のあるところから美味しい汁を吸っちゃおう的なアメリカ社会にザラッとしたものを感じたりもした。
アメリカでも、メディアのトーンは「なんとも欲張りな…」という訴訟を起こした女性への非難色。そしてその判決を導いた陪審員たちへの激しい疑問の声。成功している企業へのやっかみとか、いろいろとネガティブなメディアの報道が主流だった。それが3億円近い保障額を勝ち取ってしまったのだから尚更だ。

実際にその女性の本当の声を聞くまでもなく、彼女は10年後の2004年に亡くなっていた。

ステラ・リーベックさん、という方なのだけれど、彼女のストーリーがなぜか今になって、NYタイムスによってドキュメンタリー化され、ウェブメディアに取り上げられていた。いかに皆が真実を知ることもなく、メディアの間違ったレポートを信じこんで事実を誤解して受け止めていたか。彼女はただ本当に熱すぎたコーヒーの温度を下げて提供するよう、何度も頑なに変わることを拒否する大企業良心的判断を迫りたかっただけなのに、多額のお金が発生したことで、事実が変わってしまい、善意の人を追い込んで傷つけてしまったようだ。

僕や、周りの理解は確かにこういう風だった。欲深いお金持ちの老齢女性が、スエットパンツで運転してドライブスルーに行って、自らの過失でコーヒーをこぼした。年寄りだから肌が薄くて、たいした火傷でもないのに異常に大騒ぎ。良い弁護士雇って腹いせに大金をせしめた。陪審員は、日頃の生活の不満が鬱血していて、うまくやっているマクドナルドに、この時とばかり代理戦争的な報復をした…。

僕らは皆、メディアの報道の印象から、そんな風に信じこまされていた気がする。時は1994年。インターネット以前。ソーシャルメディアのはるか昔。真実を知る人々の声がぐるぐると駆け巡ることなく、ストーリーの筋書きを面白く「通訳」したメディアによって、事実がすり替えられてしまった。今で言う「炎上」を一身に受けて、反論の機会すら持たなかった当の本人の心労たるや、相当なものだっただろう。

このフィルムを見ると、本当に重度のやけどの跡が見れるし、本人は運転席ではなくて単に助手席にいただけなのも分かる。別にお金持ちであるわけでもなさそうだし、そしてここが肝心なのだけれど、実際にマクドナルドの提供するコーヒーは90度近くて、火傷して当然の温度だったということも分かる。

ソーシャルメディアの今だったら、もっと両側の声が上手に聞こえるだろう。彼女の火傷の映像は、ツイッターやフェイスブックを通じて世界を回るだろう。反論したければ、YouTubeで動画を回せばいい。そう考えると、僕らは良い時代に生きている。
ちょっと長いけれど、この12分のビデオは良く出来ていて興味深かった。NYタイムスが作っているようだが、他にもたくさんの動画がある。何のためにやっているのか知らないけれど、コンテンツとして純粋に作っているのなら、すごい。