『未来の年表』書評/感想。《戦略的に縮む》未来提案が秀逸

戦略というものは、何をやるかというよりも、何をやらないか、何を思い切って捨てるかにあるんだよ、と、経営で悩んでいる時期に教わり、新鮮な驚きと共に学びを得ました。

小さな組織のくせに、あれもこれもと、とにかくたくさんのことを同時に一気にこなすのが正しいと勝手に思い込んでしまい、あれもこれも中途半端になってしまっていた時期でした。

選択と集中。

そんな言葉も教わり、以後の指針ともなりました。

人口減少は「静かなる有事」

2017年6月に発売してベストセラーとなった「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること 」(講談社現代新書)は、一般に言われる高齢化、少子化、という定番化した言葉の奥深くを探り、未来に実際に起こりうることを的確に示しています。

ここで語られるのは、「問題は人口の維持ではない」ということ。

それをするには、あまりにも無理があり、避けがたい事実としてそこにあるわけです。

これほどまでの急激な人口減少社会を、人類がまだ経験したことのないという事実。

日本ははからずも、この分野でパイオニアになろうとしているわけですが、前例のないことへの対応が苦手なのも国民性、というか、文化だったりしますよね。

徐々に起きていることだから、誰もがまだ実感がなく、25年後、50年後のことを言われても、フワフワと言葉が行き過ぎるばかりで、自分ごととして想像したり、対応策を考えることが難しい、ということが、問題への取り組みを遅らせる要因のひとつになっています。

悲観も楽観もせずに、ただ、対策を練る、ということがいかに大事か、前半から7割くらいに至るまで、著者はデータを積み上げつつ、未来社会を透視していこうとします。

示される日本の未来の姿はまるでSF映画のようでもあり、でもその片鱗は、すでにいたるところで現実に始まっていることでもあります。

私も千葉市のベッドタウンですが、たまにしか帰らないので、そのたびに「変化」に驚きます。

45年ほど前に作られた「新しい街」が、高齢者ばかりが暮らす街になり、そこがどんどん空き家になっては人が入れ替わる。

駅から遠い不便な場所は価格が下がり、外国人が現金で買って移り住んでくるなんてことが、すでに起こっています。

いつまでも「他人事」ではいられない。

団塊ジュニアが65歳になって、日本の高齢者人口が最大化する2042年まで、あと25年しかないのです。

最良の選択は「戦略的に縮むこと」

そんな今だからこそ、決断が迫られていると著者は説きます。

出生数の減少も人口の減少も避けられないとすれば、それを前提として社会の作り替えをしていくしかないであろう。

求められている現実的な選択肢とは、拡大路線でやってきた従来の成功体験と訣別し、戦略的に縮むことである。

日本よりも人口規模が小さくとも、豊かな国はいくつもある。

社会の作り変えをしていくこと。

意図して、戦略的に縮むこと。

それらは、拡大、成長路線しか教わってこなかった昭和生まれの価値観からは大いに外れることでもあり、確かに、「従来の成功体験から訣別」することが大前提の考え方です。

でも、確かに日本よりもはるかに成熟し、はるかに小さく、でも問題なくうまくやれている国は多い。

衰えるのではなく、ただ成熟し、少ない人数が豊富は資源を分かち合えるようになる社会は、豊かなイメージに包まれています。

われわれが目指すべきは、人口激減後を見据えたコンパクトで効率的な国への作り替えである。

コンパクトシティ、とは最近よく聞かれる言葉ですが、強いリーダーシップと明確なビジョンと、次世代、さらに次の世代のことを考えた長期的視野に「人々」がきちんと立てれば、それは日本が本来得意なことではないかとも思えますね。

小さくとも輝く国になるために

著者は、後半の3割の部分を使って、具体的な提言を展開します。

日本を救う10の処方薬。

その中の、「戦略的に縮む」ための5つの方法論がこちらです。

  1. 「高齢者」を削減
  2. 24時間社会からの脱却
  3. 非居住エリアを明確化
  4. 都道府県を飛び地合併
  5. 国際分業の徹底

現在も議論されていますが、高齢者、という枠組みは65歳から始まるわけですが、今の65歳はあまりにも若い。

若過ぎます。

90歳、100歳人口がどんどん増えるに従って、まるで子どもと親とを同じカテゴリで一緒に語るようなもの。

75歳から高齢者と呼ぶことに変える案が、日に日に現実的に見えてきますね。

便利さを追いかけすぎて、人を苦しめる結果になっている24時間営業や細かすぎる要望に応えすぎるサービス(宅配が好例)から卒業し、「捨てるものは捨てる」。

ビジネス活動もより効率的にコンパクトになっていきます。

その他にもまだ5つの提案、提言が示されていますので、ぜひ本書の前半からじっくりと読んで、来るべき未来、すでに始まっている、我々が想像もできないでいる未来について、学ぶ機会を持つことをおすすめします。

起こったことにゆっくりと対処することばかりを続けていた社会にあって、来たる未来を予測して大胆な変革を起こすことは、容易ではないかもしれない。

だからこそ、政治に左右されない諮問機関を作り、日本の全知を集結して取り組むべきだと、作者は提言しています。

最後にもうひとつだけ、引用を。

どうせ縮まざるを得ないのならば、切羽詰まってから対策を考えるより、時代を先取りし、〝小さくともキラリと輝く国〟を自分たちの手でつくりあげたほうがよい。

取り組むべきは、人口が少なくなっても社会が混乱に陥らず、国力が衰退しないよう国家の土台を作り直すことである。

「小さくともキラリと輝く国」という言葉が、印象的です。

日本はそもそも、そういうことに対して自負し、誇りを持ち、脈々と生きてきた国民なのだから、その価値観が再び共有できれば、きっとうまくいく。

そんなささやかな希望さえ抱かせてくれる良書でした。

最後の、「未来を担う君たちへ」という終章で、中学生、高校生らに呼びかける文章も、素晴らしかったです。

「未来を見据えるために」読んでおきたい一冊

下記はもちろん、それ以外にも、未来を見据えることができる本がたくさん出てきています。

むやみに老後の不安を煽るのではなく、「老後」に突入しても、自分の力で人生を変えていけるように、今から知識と力とをつけていけるように導いてくださる本が増えているのが、心強いですね。

単に寂しい、不安だ、ということではなく、じゃあ何ができるのか、何をしておくべきなのか、という視点で読むと、発見ばかりが残るはずです。