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アメリカ食品産業の底知れぬパワー。ドキュメンタリー映画「Fed Up」は人の意識を変えるきっかけになるか

2014年春に公開されて、ようやく先ごろ(注:2014年9月の記事です)アメリカでDVDが発売されたドキュメンタリー映画「Fed Up」を、時差ボケで眠れない夜中にゴソゴソ起きだして見ました。

アメリカの食品産業は、以前のタバコ産業と同じだと感じていました。その内、人々への悪影響がピークに達し、あらゆる手段で法規制され、人々が購買を拒否するようになり、消費が激減。産業として衰退していくか、それとも変質していくか、いずれかを選ばねば生き残れないように追い込まれていくはずだと。

Fed Up」の中でも同様のことが語られていてホッとしました。それだけが、この映画から感じられた希望です。

室内でタバコが吸える環境はなくなったし、外で吸うにも、人がいる場所では吸いにくい状況があります。税金が重くかけられて経済的にも圧迫される。モラル、健康、経済、ファッション、いずれの面からもマイナスだと社会的に広く認知され、喫煙者もどんどん減少してきました。

アメリカが主導だったのかもしれませんが、今や日本でもどんどんこの傾向は進んでいます。JTが発表している喫煙者率のトレンドを見ると、この4年間だけでも、男性の喫煙者は6.3%減って30.3%に、女性も2.3%減って9.8%に減少しています。日本は右へならえの国なので、皆が吸えば吸う、止める人がマジョリティになると一緒に止める。なかなか変化に時間がかかりますが、変化し始めた途端、マスとしての傾向が変わりやすい社会ですよね。だから、食べ物も早くそうなってくれないかなと期待しています。

アメリカは、企業が巨大化し、小さなビジネスをどんどん飲み込んで、まるで生き物のように肥大化していきます。肥大化すると、今度は、サバイバルのために独自の生命維持装置が働き始め、「マーケティング」という名の下、人々の需要が継続するように様々なゲームを展開していきます。

大量のお金を使って政治を動かし、団体を動かし、反対する者には圧力をかけ、強力な力で環境をコントロールしようとする。中にいるものも止めることができない。大統領でさえも、その構造を知るのに数年もかかり、どうにもこうにも手の出しようがない状態が生まれます。

肥大化した産業は、人々に幸せをもたらすのか。だと良いのですが、そこが問題です。

このドキュメンタリーには、それほど新しいことが描かれているわけではありません。こういう話に関心を持って自分なりに追求してきた僕としては、とくに真新しい情報はありませんでしたが、おそらく大多数の人にとっては初めて聞く話も多いでしょう、信じがたい話がたくさん展開されているに違いありません。

映画の効用は、そういうところにあるのだと思います。分かりやすく警鐘を鳴らし、人々の関心を集め、ソリューションに向けての草の根運動を展開するきっかけを作っていくことです。

アメリカの子どもの3分の1は肥満。あるいは内蔵脂肪が多い隠れ肥満。さらにその内の3分の1は糖尿病か予備軍だと言います。

その原因が、よく言われているように食べ過ぎと運動不足にあるのか、というと、そうばかりでもないんだよ、ということをこの映画は説いています。加工食品に潜んでいる糖質のせいで人は中毒症状を起こし、どうしようもなく過食になっていく。でも実際には栄養が足りていなくて飢餓感は取り除けない。だからもっと食べる。肥満の連鎖が止められず、苦しむ人が後を絶たない。その原因を作っているのが、肥大化して誰が何をどうコントロールしているのかも見えない、まるで生き物のような食品産業です。

救いようのない状況をいっぱい見せながらも、最後は多少の希望感も演出しています。人間の良識を信じ、人が変わることで社会が変わり、タバコ産業が人々に悪影響を及ぼす流れを変えたように、食品産業をも変えていけるはずだとするビジョンです。

ロサンゼルスの都心部に移ってきて思うのは、多少お金に余裕があったり、意識がしっかりとしている人たちは、自分がどう生きたいかを主体的に選択していて、「何を食べるか」「何を食べないか」も、それに関連づけて選択している人が多いということです。

郊外の街に住んでいた時には全然見かけなかったベジタリアン・レストランがあちこちにあったり、普通のスーパーよりも、自然食品の大型スーパー「ホールフーズ」や良識あるプライベートブランドをそろえた「トレーダージョーズ」ばかりが近所に何軒も固まって存在していたり。

もちろんそうじゃないものもたくさんあるでしょう。自分の視界にはもう入りにくくなっているだけで、ファストフードもたくさんあるし、普通のスーパーもドラッグストアもある。マジョリティは、まだ無意識に「美味しそうだから」という基準で身体に摂り入れるものを選択しているかもしれません。

しかし、変化の兆しはちゃんと見えているように思います。こういう状況は、地道に展開し続けていけば、ある時、ターニングポイントを迎えて大きく状況が変わっていくことがあります。今やコスコやウォルマートでもオーガニック素材を扱う時代。それほど需要が多くなっているということです。

人々がもっと食に関しての知識を得て、自らが人生のハンドルを握ってコントロールするようになれば、自然と「何を食べてはいけないか」もわかってくるはずだと思います。

この映画は、日本では公開予定がないとのことですが、内容について語っているウェブサイトがあったので、ご紹介させていただきます。アメリカ在住の方は、Amazon のインスタントビデオやiTunesでレンタル視聴も可能です。

⇒ 町山智浩 映画『Fed Up』が描くアメリカの飢餓・肥満問題を語る

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